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今週市場に出ている掘り出し物のヴィンテージウォッチコラムで紹介しよう。

パテック フィリップ 恐ろしく魅力的なエリプス、アール・デコ様式のロンジン、ブシュロンの懐中時計など!

今回の5本は客観的に見ても注目に値する。信じて欲しい。とくに注目すべきは、きわめてコンディションのいいフルセットのパテック フィリップ エリプス。そして道中ではブシュロン、ロンジン、さらにはオールドイングランドにも立ち寄る予定だ。

パテック フィリップスーパーコピー代引き優良サイトまずは結果から! 2週間前にフィーチャーしたフィリップスのオークション出品、モバード テンポグラフは好調で、予想上限を上回る17万7800香港ドル(日本円で約326万円)で落札された。eBayに出品されたユニバーサル・ジュネーブ スペースコンパックスは9505ドル(日本円で約140万円)で終了。同じくeBay上では、ギャレット マルチクロン 30M “クラムシェル”が2353.88ドル(日本円で約34万円)で売却された。さらに、ウブロ MDM スーパービー クロノグラフは完売と表示されており、希望価格は2900ドル(日本円で約42万円)であった。

パテック フィリップ エリプス Ref.3938/101 ブレスレット仕様(ボックス・保証書・付属品付き)、1980年代製
1980s Patek Philippe Ellipse Ref. 3938/101
 現在の、定番外かつラウンド以外の腕時計が人気を集めるトレンドのなかで、パテック フィリップのエリプスは世界屈指の名門ブランドが誇る最も象徴的なモデルのひとつであるにもかかわらずあまり語られることがない。これはその成功の証なのかもしれない。この“シェイプド”ウォッチブームには、予想外の1本、他人とかぶらず多くのコレクターがこれまで見たことのないような時計を求める楽しさがある。だがエリプスは1968年のデビュー以来、一貫して展開されており、実際かなりの数が存在する。ただしこうした個体は決して多くはない。

 一歩引いて考えてみると、エリプスとはどういう存在なのか。コレクタビリティのジョン・リアドン(John Reardon)氏はこのモデルを、“パテック フィリップの物語を世界に語るためのキャンバス”と表現している。この言葉がずっと心に残っている。エリプスの開発と発表が進められていた当時、時計業界は迫り来るクォーツ危機の気配を感じ取っていた。1960年代を通じて技術は進歩し、やがて商業化され、機械式時計はかつてない脅威にさらされるだろうというのは明らかだった。こうした状況のなかでパテックは意識的な決断を下す。これまで外部の専門家に依頼してきたスイス随一の職人たちを自社に招き入れるというものだ。その結果、世界最高水準のブレスレット、ダイヤル、ケースの製造技術が、ひとつの屋根の下に結集されることとなった。

1980s Patek Philippe Ellipse Ref. 3938/101
1980s Patek Philippe Ellipse Ref. 3938/101
1980s Patek Philippe Ellipse Ref. 3938/101
 エリプスは、こうして新たに手に入れた製造技術の結晶であり、その真価がもっとも体現されているのが、本作のようなしっかりとした構造でありながら繊細な印象を与える、金の織り込みブレスレットモデルである。ダイヤルには無垢のゴールドが使われ、そこに熱処理を施すことで完璧なブルーに仕上げられている。ケースの形状は、いわゆる古代ギリシャの数学者たちによって導かれ、万人にとって美しく感じられるとされる黄金比率から着想を得ている。そして当時の広告はこのエリプスを“時計ではないもの”として打ち出していた。“ただ時刻を知るだけの人々は、時計を選ぶだろう。パテック フィリップを選ぶことはない”と説明していたのだ。エリプスはかつても今も、まさしく芸術作品である。

 この個体は1980年代のもので、付属の保証書にも記載されているとおり、リファレンスは3839/101。/101という型番が示すとおり、ブレスレット一体型の仕様は当初からのオリジナルである。もともとの購入者はドイツで本作を手に入れており、現在はその家族からの出品となっている。オリジナルのボックスや保証書はもちろん、1991年にパテックに時計をメンテナンスで送った際のスイス航空郵便のスタンプが押された外箱まで、すべてが残されている(写真はないが、間違いなく存在する)。ソリッドゴールドのブレスレットにエリプスらしいデザインを求めるなら、これ以上のものはまず見つからないだろう。

 出品者は、ニューヨーク在住のファウンドウェルのアラン氏。価格は2万7995ドル(日本円で約400万円)で、このパテック フィリップ エリプスを販売している。詳細はこちらから。

ロンジン ステップド・ラグ付き 18Kイエローゴールド、1940年製
1940 Longines with Stepped Lugs in 18k Yellow Gold
 ヴィンテージのロンジン製クロノグラフは、これまでも、そして現在も、将来的にも間違いなく非常にコレクタブルで率直に言って価値が高い。一方で、同時代のロンジン製3針モデルに対するコレクターの関心は、やや浮き沈みがあるのも事実だ。2015年ごろのことだが、いつか手に入れたい時計をリストアップしたAppleのメモアプリをつくったことがある。そこにはロレックス GMTマスター 1675(ちなみに、今では“ペプシ”の魅力は薄れてしまった)、パテック Ref.96 カラトラバ、ポール・ニューマン デイトナ(これはさすがに野心的だったが)などが並んでいた。そしてお察しのとおり、1940年代のロンジン製3針モデルもそのなかに入っていた。具体的には、35mm径のトレタケ。スクリューバックの初期“防水”ケースで、たぶんセクターダイヤルのものを想定していた。言いたいのは、当時のコレクター界隈ではロンジンの3針モデルに熱狂的な注目が集まっていたということだ。ただ最近では、そこまでの盛り上がりは見られない。もちろん今でも執念深く探し続けている熱心な愛好家はいるはずだが、あの頃のような広がりのある熱狂ではない、というだけの話である。

 20世紀前半のアメリカ市場においては、ロレックス以上に人気を博していたブランド、それがロンジンである。腕時計というカテゴリが本格的に立ち上がった当時、ロンジンはクロノグラフからどこへでも着けていける3針モデルまで、フルラインアップを取り揃えていた。ヴィンテージ市場で見かける数からしても、当時の売れ行きは相当なものだったことがうかがえる。ただしこの年代のモデルなだけに、コンディションには注意が必要だ。とくにダイヤルの状態は慎重に見るべきポイントだ。幸いなことに、今回紹介するこの個体は驚くほど良好な保存状態を保っている。

1940 Longines with Stepped Lugs in 18k Yellow Gold
 このラグのデザインは、ロンジンではこれまで見たことがない。まさにヴィンテージ“カラトラバ”の秀逸な選択肢と言える1本だ。ケース径は当時としては標準的、あるいはやや大きめの32mm。アール・デコに着想を得たダブルステップのラグが装着時の存在感をいっそう引き立ててくれるだろう。レモンカラー調のダイヤルはケースとの相性も抜群で、誇らしげに配されたアプライドのアワーマーカーは、1940〜50年代にロンジンが多用したデザイン様式を踏襲している。スタート価格は3000ユーロ(日本円で約50万円)で、真剣に検討する価値がある。

 このロンジンは、6月9日(月)午前10時(米国東部時間)に開催されるフィナルテのFine Watchesセール ロット184に出品されている。予想落札価格は3000〜6000ユーロ(日本円で約50万~100万円)。詳細はこちらから。

ブシュロン オーバル型 懐中時計、1950年代製
1950s Boucheron Oval Pocket Watch
 そう、今回は懐中時計である。ただし、自分にとって特別な存在であるブランド、ブシュロンの時計だ。1970年以前に製造されたフランス製の時計には、なんとも言えない魅力がある。これまで幾度となく当時のカルティエ製時計の重要性について語ってきたが、やはりフランスの時計メーカーには手作業によるつくり込みの美しさと創意工夫に満ちた独自性がある。カルティエ、ブシュロン、ヴァン クリーフ&アーペル、そしてブレゲといった面々だ。なかでも、イーグルヘッド(イエローゴールド)やドッグヘッド(プラチナ)のホールマークを見つけると、つい目が覚めるような感覚になる。スイスとは一線を画しつつ、これらのフランス人デザイナーたちは、ケース形状やダイヤルのディテールにおいて常識にとらわれず、高品質なムーブメントだけは南東の隣国スイスから調達するというアプローチを取っていた。

 この時代のブシュロンには、非常に個性的でギルト調の濃いデザイン言語が存在していた。多くのダイヤルには署名すら入っていない。それもそのはず、当時のブシュロンは時計ブランドというよりジュエラーとしての性格が強かったからだ。リングやネックレスに大きくブランド名を刻むことがないように、時計に名前を載せる必要もない、という発想だったのだろう。そんな流れに逆らって、本作にはしっかりとしたサイズ感のブランドサインが施されており、ブシュロンがその名を印字し始めた時期として正しい書体が使われているのだ。もちろん、あの名匠デレク・プラット(Derek Pratt)がウルバン・ヤーゲンセン(Urban Jürgensen)のために手がけた、オーバル型懐中時計の廉価版とまでは言わないが、少なくとも形は同じだ。私はこれを懐中時計と呼んでいるが、オークションハウスは“ペンダント”として出品している。たしかに彼らの言い分も正しいかもしれないが、ポケットに忍ばせることも十分可能だ。サイズは横幅33mm、高さ48mm。

1950s Boucheron Oval Pocket Watch
 このブシュロンの懐中時計は、オーダップ&アソシエが主催するJewelry & Watches - Silverwareセールにて、ロット97として出品されている。開催は6月5日(火)午前7時30分(米国東部時間)。予想落札価格は2500〜3500ユーロ(日本円で約40万~57万円)となっている。詳細はこちらから。

ミネルバ 防水クロノグラフ “サーモン” ダイヤル仕様、1940年代製
 ミネルバは、ヴィンテージ市場においていまだ過小評価されているブランドのひとつである。モンブランが2004年にブランドを買収し、ミネルバ由来のヴィンテージムーブメントを用いた高価格帯の現行モデルを展開しているにもかかわらず、オリジナルのヴィンテージ品はいまだに、その内容からすると驚くほど安価で手に入るのが現状だ。ミネルバのクロノグラフは自社製ムーブメントを搭載し、当時としては最高水準のケースを採用していた優れた時計である。そして特筆すべきはダイヤルだ。とりわけ本作のように“サーモン”トーンを採用したモデルは、見た目にも非常に魅力的である。

1940s Minerva Waterproof Chronograph with 'Salmon' Dial
 eBayの出品者はムーブメントの写真を掲載していない(エステートセールで拾った品のようで、ケースの開け方を知らないのかもしれない)が、おそらく内部にはCal.13-20 CHが搭載されていると推測される。ちなみに現在、モンブランは公式サイトでモンブラン 1858 ミネルバ モノプッシャー クロノグラフ レッドアロー リミテッドエディション 88を524万6450円(税込)で販売している。このモデルに搭載されているのはCal.MB M13.21で、まさに本作に搭載されているであろうヴィンテージムーブメントをベースにしている。今回eBayにて3500ドル(日本円で約50万円)で出品されている本機は、その背景を踏まえると非常にお買い得と言えるだろう。

 出品者はミシガン州ドール在住のeBayセラーで、即決価格は3500ドル(日本円で約50万円)。詳細はこちらから。

オールドイングランド エリザベス女王 マーキン・シリーズスタンプダイヤル仕様、1971年製
 オールドイングランドの時計については過去のBring A Loupeでその全貌を取り上げたので今回は繰り返さないが、それにしてもこの価格でこのおもしろさは見過ごせない。たしかにつくりはそれほどよくなく、基本的には1960年代スウィンギング・ロンドンのカルティエ ロンドンが持っていた遊び心を、ギフトショップ向けにアレンジしたような存在だ。だがハマるときは本当にハマる。ヴィンテージの切手(スタンプ)をそのままダイヤルに用いた時計なんて、正直これまで見たことがない。あなたはどうだろう?

1971 Old England with Queen Elizabeth Machin Series Stamp Dial
 はっきり言っておこう。この時計のクオリティは高くない。eBayの出品ページなどでムーブメントの写真を見るかぎり、機械式ではあるもののそのつくりは笑ってしまうほど粗雑だ。ケースに至っては金メッキとさえ言えず、ゴールドトーンと表現しておくのが妥当だろう。それでも、数百ドルで手に入るリアルなヴィンテージウォッチとしてこのデザイン性は見逃せない。とくに気に入っているのは、エリザベス女王の1 ½ペンス切手(マーキン・シリーズ)がそのままダイヤル背景に使われている点だ。その上にOld England 1971の文字が、かつて郵便局で使い古された切手にスタンプを押したかのようなスタイルで重ねられている。この演出が実に楽しい。190ポンド(日本円で約4万円)未満で手に入る、遊び心満載の1本である...で、もうだいぶ前から出品されてるし、eBayで“ウォッチ中”なのが自分だけっぽい? まあ、それが何か?