メルシー インストゥルメンツが新作LMM-01が新登場。
パリ発、モダンクラシックのLMM-01に新たな4つのダイヤルが加わり、ドレス仕様から実用的なフィールドスタイルまでをカバー。
パリ3区、ピカソ美術館の角を曲がると、メルシー(Merci)の社長アルチュール・ジェルビ(Arthur Gerbi)氏が“世界でもっとも写真に撮られているフィアット500”と呼ぶ1台が目に飛び込んでくる。ゼニススーパーコピー代引き優良サイト排気量499cc、18馬力のその小さなマシンのすぐ先にあるのが、メルシー・パリだ。小売店であり、ギャラリーであり、スタジオであり、レストランでもあり、そして2017年からはウォッチクリエイターでもある。HODINKEEのファンであれば、メルシーとその象徴的な赤いフィアットをよくご存じだろう。我々はこれまでに2度、リミテッドエディションプログラムを通じて彼らと協業しており、2020年にはLMM-01を、2024年にはボーマルシェ H02を発表している。
Merci LMM-01 2025 iterations
昨日、メルシー インストゥルメンツ(同社の時計部門にあたるインハウスブランド)が、LMM-01の新たなバリエーション4種を発表した。LMM-01は世界中にファンを持つモデルであり、私もそのひとりである。時刻表示のみに特化したシンプルな設計がLMM-01の本質だが、メルシーはそのコンセプトに対し、常に個性あるアプローチを加え続けている。結果このモデルは従来の時計愛好家にとどまらず、より幅広い層のユーザーにも受け入れられるようになっている。
今回発表された4モデルすべてに共通するのは、直径38mm、厚さ9.55mm(ドーム型サファイアクリスタルを含む)のステンレススティール製ケースである。ケース全体にはヘアライン仕上げが施されるほかドリルドラグとなっており、裏蓋はSS製のクローズド仕様だ。ラグからラグまでの長さを重視する読者のために付け加えると、LMM-01のそれは47mmである。搭載されているムーブメントはスイス製の手巻きキャリバー、セリタSW210-1-bで、パワーリザーブは約42時間だ。
Merci LMM-01 2025 iterations together
The Merci LMM-01 The Dress Watch on the wrist
The Merci LMM-01 The Numerals on the wrist
4つのダイヤルにはそれぞれ名前が付けられており、それぞれが(この言い回しをお許しいただきたいが)“je ne sais quoi(ひと言では言い表せないけれど、なんとも魅力的で引かれるもの)”だ。
まず最初に紹介するのは、名前のひねりこそ少ないものの、そのネーミング以外すべてにおいて私を引きつける“ザ・ドレスウォッチ”だ。尖ったバトン型インデックスは1930〜40年代のダイヤルデザインをほうふつとさせ、やや白から外れたプリントも、当時の“ギルト”シルバー仕上げのような雰囲気をまとっている。漆黒のラッカーダイヤルには、時に“スリム・ボー”とも呼ばれる細身のソード型針が組み合わされ、ブラックのコードバンレザーストラップが全体を品よくまとめている。
The Merci LMM-01 The Dress Watch
“ザ・ヌメラルズ”は、今回の4モデルのなかでも最もクラシカルでエレガントな時計である。メルシーはあえて明言していないものの、コレクターの多くはこの数字を“ブレゲ数字”として認識しているはずだ。同モデルがスイスの書体に敬意を表しているとうたっている点からも、ジュネーブのダイヤルメーカー、シュテルン・フレール社によってこの美学が広まったことを暗に示しているのかもしれない。ダイヤルセンター部分はクリームトーンで仕上げられ、アウター部分はそれより明るく、ほとんど白に近い色調となっている。ブラックのシリンジ型針が、ブラックのコードバンレザーストラップとマッチしている。
LMM-01ケースの多様性を示す好例が、3番目のバリエーションである“ザ・ミリターレ”だ。全面ヘアライン仕上げのスティールケースとステップベゼルを備え、機能性重視のツールウォッチらしい要素を前面に押し出している。ライトブラウンのダイヤルに合わせて、針と主要なアラビア数字にはフェイクパティーナ調の色合いが取り入れられており、温かみを演出している。またIWC マーク XIのようなヴィンテージモデルやパネライのディテールをほうふつとさせながらも、フォントの選び方などにメルシーらしさがにじみ出ており、意識的であれ無意識であれ、コレクターの心を動かすデザインとなっている。
The Merci LMM-01 The Militare on the wrist
The Merci LMM-01 The Scientific
The Merci LMM-01 The Scientific on the wrist
最後に紹介する“ザ・サイエンティフィック”は、今回のラインナップのなかで最もユニークなモデルである。原子力時代に着想を得た本モデルは、ダイヤルデザインに(ニールス・)ボーアの原子モデルをモチーフとして取り入れている。小ぶりな内側のダイヤルには、控えめなゴールドトーンのルミノバ製ドットがインデックスとしてあしらわれている。ルミノバをインサートしたドフィーヌ針は、全体に漂う1950年代の美学と調和しており、ブラックのセンターセコンド針はアウタートラック上で視認性を発揮する。なお“ザ・サイエンティフィック”は数量限定での生産となる。
価格については、ザ・ドレスウォッチとザ・ヌメラルズが420ユーロ(日本円で約6万8000円)、ザ・ミリターレとザ・サイエンティフィックが390ユーロ(日本円で約6万4000円)に設定されている。4モデルすべて、メルシーの公式サイトで購入可能だ。
我々の考え
メルシー×HODINKEEによるLMM-01 リミテッドエディションを誇らしく所有している身として、このモデル、なかでもケースには深い愛着を抱いている。自分自身このモデルは試みたことはないが、現在の市場に目を向ければ、ちょうどよいサイズ感で快適につけられる時刻表示のみの時計をつくることが、いかに難しいかは明らかだ。だからこそこのジャンルの本質を見事に捉えた時計に出合うと、それが長年にわたって愛用しているLMM-01であれ試着の数分間であれ、強く印象に残るのだ。もっとも、LMM-01が手首にぴたりと収まる絶妙なサイズ感と装着感を備えているのは、ある意味当然とも言える。というのも、メルシーのチームは時計業界では比較的異色の存在であり、どちらかと言えば時計ファンというより、デザインのプロフェッショナル集団だからである。その視点こそが重要なのだ。時計デザインに蔓延する集団思考にとらわれることなく、彼らはこのモデルをとおして繰り返し進化させるための完璧なプラットフォームを生み出している。
The LMM-01 The Dress Watch on top of passports
幅広い時計ファンの興味を引く多彩なダイヤルバリエーションを備え、週替わりのローテーションの空白を埋める1本を探している人にも応える今回の新作群は、2017年の初登場以来、メルシーが送り出してきたなかでも最もバランスの取れたラインナップと言えるだろう。特定の用途に特化したモデルや、時計好きが集うWhatsAppグループで話題をさらいたいなら、ザ・ミリターレやザ・サイエンティフィックをおすすめしたい。一方で私のように、ウォッチボックス(あるいは靴下を入れている引き出し)から気軽に取り出して数日身につけたのち、また次の気分に切り替えたくなるタイプであれば、ザ・ドレスウォッチやザ・ヌメラルズのほうがきっとしっくりくるはずだ。
個人的な好みを言わせてもらえば、ザ・ドレスウォッチにどうしても引かれてしまう。パテック フィリップ、IWC、ロンジン、ヴァシュロン・コンスタンタンといった名門ブランドのヴィンテージモデルを想起させるデザインながら、価格は7万円以下という、ツウ好みの1本に代わる存在である。その名前の並びに思わず目を丸くしたかもしれないが、まさにそこにメルシーの魅力があると私は思う。このようなデザインにインスピレーションを与えたヴィンテージピースを運よく所有しているとしても、実際にはその多くが非常に繊細で、もはや日常的に着用する本来の使用方法には適していないのが現実だ。その点本作は、手ごろな価格ながら手巻きのセリタ製ムーブメントを搭載しており、これは整備のしやすさでは世界でもトップクラスとされる機構を備えている。つまり、その気になれば徹底的に使い倒すことができるのだ。
基本情報
ブランド: メルシー インストゥルメンツ(Merci Instruments)
モデル名: LMM-01 ザ・ドレスウォッチ(The Dress Watch)/ザ・ヌメラルズ(The Numerals)/ザ・ミリターレ(The Militare)/ザ・サイエンティフィック(The Scientific)
直径: 38mm
厚さ: 9.8mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック/クリーム/ライトブラウン/シルバー
インデックス: アプライドバトン/アプライドブレゲ数字/アラビア数字/ルミノバのドット
夜光: なし(ザ・ドレスウォッチ、ザ・ヌメラルズ)、あり(ザ・ミリターレ、ザ・サイエンティフィック)
防水性能: 10気圧防水
ストラップ/ブレスレット: ブラックコードバンレザー/ブラックコードバンレザー/ブラウンボックスレザー/ブラックレザー