記事一覧

今週市場に出ている掘り出し物のヴィンテージウォッチコラムでお届けする。

ついにニューヨーク夏季オークションのウィークエンドがやってきた。そう、またしても主要オークションハウスによる1週間がやってきたのだ。信じられるだろうか? さて、フィリップス、クリスティーズ、サザビーズといった名だたるオークションハウスは春から初夏にかけて世界各地を巡りながら数百点にのぼる時計を出品し、驚愕の落札結果を叩き出してコレクターたちの注目を集めている。今週のコラムでは、それぞれのオークションから注目の数本をピックアップ。そして恒例のBring A Loupeセレクションとして、より現実的な価格帯で狙えるeBay出品アイテムもご紹介しよう。

パネライスーパーコピー代引き優良サイトその前に、前回のコラムの結果を簡単に振り返ろう。冒頭に紹介したパテック フィリップ エリプス Ref.3938/101は落札され、新たなオーナーの元へ。希望価格は2万7995ドル(日本円で約410万円)だった。また、eBayに出品されていたオールドイングランド エリザベス女王の郵便切手付き時計は190ポンド(約3万7000円)のベストオファーで落札。ご購入されたBAL(Bring A Loupe)読者の方、おめでとう! そしてコメントもありがとう。さてここでお知らせだ。1940年代製ロンジンのアール・デコ様式“カラトラバ”は、6月9日(月)午前10時(アメリカ東部時間)よりフィナルテ(Finarte)にて競売予定だ(編注;現在は終了している)。

Aurel Bacs on the rostrum at Phillips auction house
 自宅からビッグオークションの模様を追いたい方のために、スケジュールを以下にご案内。

hillips - The New York Watch Auction: XII(フィリップス ニューヨーク・ウォッチ・オークション XII)
 6月7日(土)午前10時(アメリカ東部時間)
 6月8日(日)午前10時(アメリカ東部時間)

Christie's - Important Watches Featuring Stories in Time: A Collection of Exceptional Watches(クリスティーズ インポータント ウォッチズ 〜時の物語:特選腕時計コレクション〜)
 6月9日(月)午後2時(アメリカ東部時間)

Sotheby's - Important Watches: Take a Minute(サザビーズ インポータント ウォッチズ:テイク・ア・ミニット)
 6月10日(火)午前10時30分(アメリカ東部時間)

フィリップス:1970年代製ブラックダイヤルのカルティエ タンク ルイと、市場初登場の2本のアイコン
A black-dialed Cartier Tank Louis
フィリップス-ロット103:1970年代製 ブラックダイヤルのカルティエ タンク ルイ。Image courtesy of Phillips.

 『HODINKEE Magazine』Vol.13にて、カルティエ タンク ルイのについてのReference Points記事を書いたばかりだったので、フィリップスのカタログをスクロール中にこのロット103を見つけたときの驚きといったらなかった。そこには、ブラックダイヤルを備えた1970年代製カルティエ・パリ タンク ルイが掲載されていたのだ。このきわめて希少で、おそらく特別に製作されたバリエーションを記事に取り上げなかったことに一瞬腹を立てたが、すぐに気を落ち着けた。“レア”と“カルティエ”はしばしば同じ文に登場する言葉だし、誤解しないで欲しいが実際そうであることが多い。ただしまったく未知の個体を見つけるのは、いうまでもなくさらに難しい。ロンドン製クラッシュがレアであるのは確かだし、1910年代のサントスもしかり。だがそれらの存在はすでに知られている一方で、このロット103は存在すら知らなかったものなのだ。

 文字盤のことはひとまず置いておくとしても、この個体はすでにタンク ルイのなかでもレアな部類に入る。“ノンスクリュー”のケースは、カルティエが時計製造をスイスへ移す直前、パリのエドモン・ジャガーによって製造されたものだ。フィリップスのカタログにあるとおり、ムーブメントはETA 2512-1をベースとしたCal.78-1で、これはスイス製ケースに移行した時期に“正しい”とされるキャリバーである。一方、1972年ごろまでのタンクにはJLC製のムーブメントが使われていたため、これはいわば過渡期的な1本となる。これを食い違いと呼べるかどうかはともかく、驚くことではない。ヴィンテージカルティエの真贋を見極める作業は、決して白黒はっきりするものではないのだから。

A Rolex Paul Newman daytona
フィリップス - ロット90 :1969年製 ロレックス デイトナ“ポール・ニューマン”。Image courtesy of Phillips.

 さて話をダイヤルに戻そう。ホワイトダイヤルが通例とされるカルティエにおいて、その常識を覆すブラックダイヤルは、ヴィンテージの文脈ではきわめてまれだ。カルティエ・ロンドン製のブラックダイヤルモデルはオークション市場でかなり過熱しており、昨年6月にはベニュワール アロンジェが38万7350ドル(当時の相場で約5860万円)で落札された例もあるため、このカルティエ・パリ製ブラックダイヤルの市場での動向は実に興味深いものになるだろう。ちなみに、このロットの予想落札価格は1万5000〜3万ドル(日本円で約220万~430万円)と控えめに設定されている。

 さて、その他のフィリップス出品時計についても注目だ。もしあなたがヴィンテージウォッチビギナーで、かつステンレススティールに目がないなら、理想的な2本のコレクションをコンプリートすることができるかもしれない。どちらも市場初登場で、1969年製ロレックス デイトナ Ref.6239 “ポール・ニューマン”(ロット90)とブレゲ数字のスリートーンダイヤルを備えたパテック フィリップ カラトラバ Ref.570(ロット95)の2本だ。もうこれだけで十分である。

A Patek Philippe Ref. 570 with Breguet numerals
フィリップス- ロット95:パテック フィリップ Ref.570 スリートーン・ブレゲ数字ダイヤル。Image courtesy of Phillips.

 ポール・ニューマンは素晴らしいコンディションで、箱と保証書も完備。1970年に卒業祝いとして贈られた時計で、オリジナルオーナーからの委託出品となっている。対するパテックは2000年代初頭に委託者がNAWCC(全米時計収集家協会)のマートで購入したものだが、公的なオークション市場に出品されるのはこれが初めてとなる。スリートーンのブレゲダイヤルは一部のコレクターにとっては垂涎の的であり、Talking Watchesに登場したアルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)氏がSS、イエロー、ローズゴールドそれぞれのRef.570を取り出した場面を覚えている読者も多いだろう。あの瞬間を思い出さずにはいられない。

 フィリップスのカタログは全143ロットで構成。ぜひご自身の目でチェックしてみて欲しい。詳細はこちらから。

クリスティーズ:1927年製オーデマ ピゲのカレンダーウォッチと、軍用由来の初期ロレックス エクスプローラー2本
A 1927 Audemars Piguet complete calendar
クリスティーズ― ロット30:1927年製 オーデマ ピゲ・コンプリートカレンダー。Image courtesy of Christie's.

“どのブランドでもいいから好きな年代をひとつ選べ”と強引に迫られたら、私は歯を食いしばりながらこう答えるだろう。1960年代以前のオーデマ ピゲ、と。ロイヤル オーク以前のAPはすでに複雑機構の巨匠であり、なかでも私のお気に入りであるカレンダー機構に秀でていた。1924年に始まったカレンダーウォッチ製造のなかで、オーデマ ピゲは今回ロット30で出品されるような長方形ケースのトリプルカレンダー(または“コンプリートカレンダー”)モデルをわずか48本のみ製作した。その多くはオーデマ ピゲの名ではなく、販売を担った小売業者の名のみがサインされていた。なぜなら当時のAPはまだ“ブランド”としての体をなしていなかったからだ。48本中、22本は最も一般的な金属であるホワイトゴールド製、17本は当時APが“グリーンゴールド”と呼んでいた、現在の呼称ではイエローゴールド製とされている。私の把握する限りではこの48本のうち12本が現存し、そのなかでも“グリーン”すなわちYGは4本にとどまっている。

 今回出品される個体はまさにヴィンテージの醍醐味を感じさせる魅力的なコンディションで、ケースには濃いパティーナが美しく浮かぶ。なお文字盤は、カタログ写真よりも実物のほうが見栄えがするという。昨年、フィリップスではWG製の同型モデルが出品された。その個体はオーデマ ピゲによってケースとダイヤルがフルレストアされており、最終的に 12万650スイスフラン(当時の相場で約2070万円)で落札された。対照的に、今回のロット30はすべてがオリジナルのままだ。未整備とレストア済みのプレミアム差を見極める市場指標としても、価値ある出品だ。なお昨日、モナコ・レジェンド・グループのオークションで高額落札が相次いだことを受けて、初期のAP市場は一気に加熱しつつある(具体的な結果はこちらとこちらを参照)。