我々はその歴史を知っているし、“ウォッチメーカーのためのウォッチメーカー”と称される理由も理解している。業界全体にムーブメントを供給し、数多くの競合ブランドのアイコン的なモデルの中核を担ってきた存在だ。しかし業界全体が自社製造(マニュファクチュール)へと移行するなかで、“本物のマニュファクチュール”であることの価値は歪められてしまった。その結果、本来ならば製造力という栄光を誇りとして前面に押し出すべきジャガー・ルクルトスーパーコピー代引き優良サイトが“語るな、示せ”という姿勢を貫くようになってしまった。
JLCは、自らの業界随一とも言えるムーブメント製造能力や歴史をことさら誇示するのではなく、静かにレベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンドのような時計を発表することで、それを示している。この時計は我々がよく知るクラシック、いやアイコン的存在とも言えるレベルソ・トリビュートに対する、控えめながら明確なアレンジである。しかし特筆すべきはブレスレットである。そう、このブレスレット自体が芸術作品なのだ。ひとコマずつ織られ、型押しされ、手作業でろう付けされたJLCのミラネーゼブレスレットは、クラフツマンシップの粋を示すものであり、突然ブレスレットに熱を上げはじめた市場に絶妙なタイミングで投入されたものである。
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
HODINKEEを読んでいる読者であれば、レベルソの歴史について今さら講釈を受ける必要はないかもしれない。しかし本作に関連するいくつかの文脈を押さえておくことには意味がある。たしかに、このデザインおよび時計ファミリーの起源は1931年にまでさかのぼる。当時レベルソは世界初の“スポーツ”ウォッチのひとつとして設計され、英領インドでポロ競技に臨む選手たちの手首を飾ることを意図していた。初期のモデルの多くは、女性向けの小型モデルであっても、ステンレススティール製で製造されており、裏蓋には誇らしげにStaybriteの刻印が施されていた。1931年の初回生産分には、タバンとJLCによって供給されたムーブメントが搭載され、レベルソは早くも市場で成功を収めた。そしてJLCは、そのケースに合わせた自社製キャリバーの開発にすぐさま着手し、1933年にはインハウスムーブメントを搭載したレベルソが登場することとなった。
1933年という年は、レベルソの歴史において重要な転換点である。この年、ブランドはこのデザインが持つ可能性に気づき、さらなるクラフツマンシップをレベルソに取り入れることとなった。レベルソの裏面には、エングレービング、エナメル、ラッカーによるモノグラムや紋章、エンブレムが施されるようになり、これはレベルソがラグジュアリーな存在へと進化していく最初の一歩であった。
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet on the wrist
約60年を一気に飛ばすと(そのあいだのレベルソの詳細な物語は、ぜひこの動画を参照して欲しい)、1991年にはレベルソ誕生60周年を記念し、JLCは6つのレベルソ・コンプリケーションの第1弾を発表した。パワーリザーブとデイト(1991年)、トゥールビヨン(1993年)、ミニッツリピーター(1994年)、クロノグラフ(1996年)、ジオグラフィーク(1998年)、永久カレンダー(2000年)というラインナップである。これら6本の複雑機構を備えた時計によって、レベルソは名実ともに真のラグジュアリー製品へと昇華し、JLCがその製造能力を存分に誇示する舞台となったのである。
初期のスポーツウォッチとして誕生し、やがて複雑機構を搭載するラグジュアリーなプラットフォームとして再構築されたレベルソは、近年ではその両者をあわせ持つ存在として落ち着いている。そんなモデルの歴史において、最後に強調すべき重要な転機が2011年のグランド・レベルソ・ウルトラスリム・トリビュート・トゥ 1931 USリミテッドエディションである。その名の長さに反して、実にシンプルな時計だ。このモデルこそ我々が今日知るトリビュートラインの礎を築いた1本であり、オリジナルレベルソへの敬意を込めつつ現代的に再解釈したものである。これはHODINKEE創設者のベン・クライマーにとって長年のお気に入りでもあり、発売当時には“まさに本物の時計愛好家が求めるもの”と評していた。また2013年には、ジェイ・Zがカーネギーホールのステージ上でピンクゴールドのバリエーションを着用したことでも知られている。
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
現行のカタログには、カレンダー機構からトレブシェ式ハンマーとクリスタルゴングを搭載した最新トリビュート・ミニッツリピーターまで、複雑機構を備えた選択肢が揃っている。一方でトリビュート・モノフェイスのような、シンプルかつSS製でスポーティなモデルも並ぶ。そしてWatches & Wonders 2025の新作として登場したトリビュート・モノフェイス・スモールセコンド(ミラネーゼリンクブレスレット仕様)は、今日におけるレベルソの特別さを完成させる1本である。コンプリケーションを備えずともこのモデルはシンプルで敬意に満ち、ラグジュアリーでありながらクラフツマンシップにあふれている。まさに現代におけるレベルソの本質を体現する存在である。
今回の新作レベルソには、1992年に発表されたCal.822が搭載されている。このムーブメントに対して古さを指摘する声があるかもしれない。しかしJLCで最も称賛されているキャリバー、すなわち1967年に誕生したCal.920はいまなお、時計製造史におけるアイコニックなデザインの一部を支える存在であることを思い出して欲しい。Cal.822もまた決して目的を見失っていない。完全自社製の同ムーブメントはレベルソのケースに合わせて明確に設計されたものであり、約42時間のパワーリザーブを備えている。
調和のとれた全体的なモノトーンの印象を完成させているのがPGカラーのダイヤルである。表面にはテクスチャー感のあるグレイン仕上げが施されており、これは複数回にわたるスタンピング加工によって実現されている。この仕上げにより全体の印象が程よく抑えられ、バランスの取れた外観となっている。仮にJLCがほかのトリビュート・モノフェイスにも見られるようなサンレイサテン仕上げのような標準的なダイヤルを採用していたなら、オールゴールドの意匠は過剰に感じられたかもしれない。しかしこのモデルはPGを全面に打ち出しながらもダイヤルが柔らかく控えめなトーンであるため、非常に装着しやすくなっている。
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
標準的なトリビュート・モノフェイスのケースは、本作においてわずかに再設計されており、ブレスレットがラグと一体化しているかのような外観を実現している。ただしケースの寸法自体は従来と変わらず、高さ45.6mm、幅27.4mm、厚さ7.56mmである。実際に手首につけたときの印象はほとんどがこのブレスレットに起因しているが、ケース単体の話をすればこのサイズ感はやや大げさに感じられる部分もある。私は小振りな時計を好むが、それでもこのレベルソであれば喜んで着用したい。おそらく、それはひとえにこの素晴らしいブレスレットの存在によるところが大きいのだろう。
PG製の2本のワイヤーは合計16m以上にもおよぶ素材が精緻に編み込まれ、ミラネーゼブレスレット特有の布のような質感(プレッツァと呼ばれる構造)を形成している。このブレスレットは、中断することなくひとりの職人によって織り上げられ、その後スタンピングを経てひとコマずつていねいに手作業でろう付けされる。その結果、手首の上ではまるでファブリックのように滑らかにフィットしながらも、決してだらしなく感じさせない適度な構造性を持ち、かつ折れ曲がることもない柔軟性を備えている。ストラップ仕様の印象が強いレベルソにおいて、このブレスレットは時計をひとつの完成されたオブジェへと昇華させる決定的な要素となっている。実際に手首に載せたとき、そのつけ心地はまさに夢のようだ。ポリッシュ仕上げのスライディングクラスプも見逃せないディテールであり、細かい調整が可能な設計となっている。一般的な安価なアフターマーケット製ミラネーゼブレスレットでは、スライディングクラスプの位置は裏側のスロットに限られることが多いが、本作では好きな位置でしっかりと固定できる。
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
JLC Reverso in pink gold on Milanese bracelet
このブレスレットは、開発と完成に相当な時間を要したことは想像に難くないが、1960年代〜70年代のメッシュおよび編み込みブレスレットスタイルへの熱が冷めやらぬ市場に、まさに絶妙なタイミングで投入された。こうした現象は、いわゆる“ジーザーウォッチ(年配好みの時計)”トレンドと呼ばれることもある。もっとも今回の最新レベルソをジーザーウォッチと位置づけるつもりは毛頭なく、むしろ正反対である。しかしながら、時計愛好家たちが再びこの時代へと関心を寄せ始めていることは無視できない事実だ。当時のデザインでは、ブレスレット製造の技巧が中心的な役割を担っていた。さらに時代をさかのぼれば、1940〜50年代のブレスレットにも注目が集まっており、とりわけGay Frères製のブレスレットは、ヴィンテージピースと完璧にマッチさせるために、コレクターたちが目を疑うような価格を支払うほどの人気を博している。
ブレスレットに熱を上げる時計愛好家たちの動向は、競合他社にも確実に注目されている。同じWatches & Wondersの場でJLCがこのトリビュートを発表した一方、ロレックスは新たに2種類のブレスレットをカタログに加えた。ランドドゥエラーに採用されたフラットジュビリーブレスレット、そして1908に合わせて登場したセッティモブレスレットである。私の知る限り、ロレックスが同一年に2種類の新ブレスレットを投入するのはこれが初めてのことだ。このトレンドを語るうえで忘れてはならないのが、パテック フィリップのエリプス Ref. 5738/1Rである。2024年に登場したこのモデルはチェーンスタイルのブレスレットを備えており、ブレスレット人気の潮流に明確に呼応した存在と言える。